暗い、暗い闇の中――

ここは――どこ――?
私はゆっくりと目を開いた。
真っ白な天井――規則的な機械音――隣に立つ、真っ白な人――
「先生っ!患者さんが目を覚ましました!」
体が、動かない――所々が熱を持ったように――熱い――
意識が、ようやく覚醒してくる。
ここは――――病院!?
何で――?

……たしか、今日は――三限目の理科の授業を終えて――更衣室で体操服に着替えて――
そして――体育館に由美子と一緒に向かって――
体育館の直前で、いきなり誰かに肩をつかまれて――
――振り向くと、先輩がいて――
とても、気まずくって……ごめんなさいって言いたくって……でも、言葉が出なくって――
――そして……そして……先輩が何かを振りかざして――

……あとは――よく憶えてない。
体のあちこちが熱くなって――先輩が、涙を流して――目の前が紅く染まっていって――
――悲鳴が聞こえて――なぜか私も涙が溢れてきて――そして……何も見えなくなって――

――そうだ――私、先輩に――

改めて、部屋を見回す。
……病室――にしては機械がいっぱい並んでいるなぁ……。

誰かが飛び込んでくる――お母さんだ。

「紗槻、大丈夫!?」
目に涙を溜めている。
……どうしたんだろう?
「もう、大丈夫だからねっ!
……お前を刺し殺そうとした三年生の生徒は、体育の神崎先生に取り押さえられて、今はもう警察だから……」
――違うっ、先輩は悪く無いっ!私が……私が悪いのっ!
「……相手は『受験でむしゃくしゃしてた。誰でもよかった』なんて言ってるらしいけど、ホント、災難だったわね」
そんなの、うそっ!!……なんで私の言葉を無視するの?
……ちゃんと私の事、見てよっ!……ちゃんと私の事、聞いてよっ!!
あ…れ……?
――声が――出ない!?
人工呼吸器のせいだけじゃない……。
そんな事より、先輩が警察に捕まってるの?
……私が悪いのに――私が悪いのに――
「疲れたでしょう?……もうお休みなさい。あなたが寝るまでここにいるから――」
その言葉に、私の意思とは関係なく、意識が闇に沈んでゆく――
――嫌だっ――まだ……先輩が、悪く……ないって――伝えて……な、いの、に――
私の心は――まだ――


その人に出会ったのは、去年の12月24日――クリスマス・イヴだった。
中学一年だった私は、商店街に流れるクリスマスソングに浮かれながら――
……心は、一人きりのクリスマスに沈んでいた。
離婚した母は私を養うために、クリスマスも関係なく、仕事に飛び回っていた。
夕飯のお買い物を済ませた私は、聖夜の奇跡を信じるわけでもなく、ただボーッと公園のベンチに座っていた。
暗い、一人きりのあの部屋に帰る気がしなかったのだ。

……そこに声を掛けてきたのが――先輩だった。
「……どうかしたのか?頭に雪が積もってるけど……」
優しげな声――暖かい笑顔――差し出された傘――そのどれもが、私には煌めいて見えた。
しばらく見とれていた私の、頭に積もった雪を払ってくれ、しかも家まで送ってくれた。
……見ず知らずの私を――その時の私には、それで十分だった。

そして――春が来て――夏が終わって――秋が過ぎて――もうすぐ、一年ぶりのクリスマス――
今年は一人じゃない――はずだったのに――

なんで――こうなっちゃったの……?
――私、今でも――
アトガキ